『スカーレット』と『おしん』 朝ドラの病と死、エロスと陶芸を考える |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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『スカーレット』と『おしん』 朝ドラの病と死、エロスと陶芸を考える

官能性と愛を絶妙に絡めた物語を期待

 さて、このドラマより一週早く結末を迎えるのが「おしん」だ。ご存知、朝ドラ史上最大のヒット作であり、昨年春から「なつぞら」秋からは「スカーレット」(BSプレミアム朝枠)の直前枠で再放送されてきた。筆者のように、新旧2作を連続で見ている人も少なくないだろう。

 こちらはもう、劇的な死がてんこ盛りである。ヒロインが数えで7歳のとき、奉公先を飛び出して雪山で遭難しかけたところを助けてくれた逃亡兵の銃殺に始まって、女工哀史そのものの姉の肺病死、子守をした加賀屋次女の肺炎による夭折、関東大震災による源じいの圧死、姑にいじめられたがゆえの自身の死産、娼婦に身を落とした親友・加代の酒びたりの果ての病死。太平洋戦争では、長男が戦地で餓死するし、戦争協力に尽くした夫は責任をとって割腹自殺を遂げる。生きて戻ってきた長男の戦友も高利貸しをして儲けたために恨みを買い、惨殺された。

 そこまで劇的でなくとも、祖母に父、母、加賀屋大女将といった人たちも逝き、そうしたすべての死がヒロインの生き方を揺るがしていく。ここでの死は哀しみだけでなく、後悔や憎悪ももたらし、また、ときに官能的でもあり、それが生への原動力にもなるのである。

 その生の本質とは、愛や仕事だけではない。何より「種の存続」だということをこのドラマは訴えかけてくる。死が不可避であっけないからこそ、自らがたくましく生き、子孫を残すことが大切で、そのために家族が必要なのだということ、そこがいちばん「おしん」ひいては脚本の橋田壽賀子が言いたいことなのではないか、ということが伝わってくるのだ。

 たとえば、ヒロインは実子のふたり以外に、3人の子を育てあげる。親友の忘れ形見である息子・希望と、ともに不遇の娘で奉公人として引き取る初子と百合だ。やがて、希望と百合は結婚するが、百合は交通事故で急死。幼い息子が遺されてしまう。そのため、ヒロインは希望と初子を夫婦にしようとする。それほどまでに、子供を育てる、すなわち子孫を残すことにこだわるのである。

 結局、希望も初子も断るわけだが、その流れを描くうえで、重要な「小道具」となるのが、陶芸家である希望が亡妻を弔うために焼く骨壷だ。それが彼の愛の深さを示し、初子もそれを深く理解する。

 この展開には正直、うならされた。前述した、陶芸というもののエロスを見事に活かしているからだ。亡妻を想って焼く骨壷は、さながら生と死の挟間での愛撫。常人ではなかなか思いつけないアイディアだろう。

 ただ、子孫を残すことにこだわってきた「おしん」のヒロインは子にも孫にも恵まれ、そんなに孤独ではない。むしろ「スカーレット」のヒロインのほうが孤独に見えたりもする。しかも、たったひとりの息子まで喪うことになったら、その悲劇性は計り知れない。

 ちなみに、前出の「あさイチ」で、戸田は視聴者のメッセージとしてこう語った。

「息子の武志とこれからどうやって病気を乗り越えていくのか、ふたりの前向きな姿を見守っていただければと思います」

 なにやら、助かる可能性もありそうな口ぶりである。いずれにせよ、せっかくの陶芸ドラマでもあるのだから、その官能性と愛を絶妙に絡めた物語を期待したいところだ。数年前に買って愛用している結晶釉のぐい呑みを傾けながら、最後まで見届けるとしよう。

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『痩せ姫 生きづらさの果てに』
エフ=宝泉薫  (著)

 

女性が「細さ」にこだわる本当の理由とは?

人類の進化のスピードより、ずっと速く進んでしまう時代に命がけで追いすがる「未来のイヴ」たちの記憶
————中野信子(脳科学者・医学博士)推薦

瘦せることがすべて、そんな生き方もあっていい。居場所なき少数派のためのサンクチュアリがここにある。
健康至上主義的現代の奇書にして、食と性が大混乱をきたした新たな時代のバイブル。

摂食障害。この病気はときに「緩慢なる自殺」だともいわれます。それはたしかに、ひとつの傾向を言い当てているでしょう。食事を制限したり、排出したりして、どんどん瘦せていく、あるいは、瘦せすぎで居続けようとする場合はもとより、たとえ瘦せていなくても、嘔吐や下剤への依存がひどい場合などは、自ら死に近づこうとしているように見えてもおかしくはありません。しかし、こんな見方もできます。

瘦せ姫は「死なない」ために、病んでいるのではないかと。今すぐにでも死んでしまいたいほど、つらい状況のなかで、なんとか生き延びるために「瘦せること」を選んでいる、というところもあると思うのです。
(「まえがき」より)

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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瘦せ姫 生きづらさの果てに
  • エフ=宝泉薫
  • 2016.09.10